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京都地方裁判所 昭和44年(行ウ)3号 判決

原告

城陽産業株式会社

右代表者

藤本末松

右訴訟代理人

田中北郎

外三名

被告

京都府知事

蜷川虎三

右指定代理人

二井矢敏朗

外八名

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

被告知事指定代理人らは、主文同旨の判決を求め、本案前の主張として次のとおり述べた。

一  砂防法二条によると、主務大臣は砂防設備を要する土地又は治水上砂防のため一定の行為を禁止もしくは制限すべき土地を指定することができ、同法四条一項によると、地方行政庁は、右の指定を受けた指定地内において、治水上砂防のため一定の行為を禁止もしくは制限することができ、同法施行規程三条によると、禁止もしくは制限すべき行為は、都道府県規則によつて定めることになつている。

砂防法、同法施行規程三条にもとづき制定された砂防法による指定地取締規則(昭和二三年四月二〇日京都府規則第二四号)および現行の砂防指定地管理規則(昭和四〇年四月一日京都府規則第一五号・以下単に規則という)によると、指定地内における土砂等の採取については、被告知事の許可を受けなければならず(規則三条)、被告知事は許可に際し条件を付すことができる(規則七条)。そうして許可又は許可条件に違反した者に対し、被告知事は、許可を取り消し、変更し、条件を変更し、あるいは行為の中止、施設等の除却、土地の現状回復を命ずる(規則一五条一項)権限がある。

二  原告会社が操業している場所を流れている青谷川は、原告会社操業の地域を含め、その流域一帯の大部分が砂防指定地として指定されている(大正五年五月六日内務省告示第二六号)。

三  原告会社に対する従前の許可の経過は次のとおりである。

申請受付日(昭和年月日)  許可日(同上) 許可期間(許可日から)の終期(同上)

三六・六・一二  三六・七・四  三七・三・三一

三七・一二・一四  三八・四・一  三九・三・三一

四〇・一・一一  四〇・二・二二  四〇・三・三一

四〇・五・二八  四〇・一〇・二五  四一・三・三一

四一・五・二五  四二・二・九  四二・三・三一

四  原告会社の砂防指定地内の行為の許可期間は昭和四二年三月三一日で満了し、以後、原告会社に対する許可は与えられていない。

それにも拘らず、原告会社は砂防指定地内である原告会社作業場で、山砂利採取のための諸施設を残存し、無許可操業を続行している。

五  そこで、被告知事は昭和四三年一〇月一七日、規則一五条一項にもとづき、原告会社に対し砂防指定地内行為の中止並びに施設除却等の履行を命ずる処分(以下本件処分という)をした。

六  原告会社は本件処分の取消しを訴求して本件訴を提起した。

しかし、本件訴には、訴の利益がない。すなわち、

原告会社には、なんら施業を行なう権限がないのであるから、本件処分が取り消されても、法的利益はないことは明白である。

七  そうすると、本件訴は不適法であり却下を免れない。

原告会社訴訟代理人は、次のとおり反駁した。

一 被告知事主張の一ないし五の各事実は認める。

二 原告会社は、次の理由で、本件処分の取消しを求める利益がある。

継続的事業において、施業権の存続期間が満了し、権利が更新設定されるまでの間は、たとえ形式的には無権利の状態であつても、実質的にみれば、施業権の更新継続を法的に期待し得る権利状態であり、その間の事業の施行は全くの無権利操業ではなく、右のような権利状態における操業である。

理由

一被告知事主張の一ないし五の各事実は、当事者間に争いがない。

二行政法上の許可とは、行政法令による禁止を特定の場合に特定人に解除する行為を指称し、許可を受けたものは、適法に一定の行為ができるだけで(禁止の解除)、この許可によつて何らかの権利が発生するものではないと解するのが相当である。

本件においても、被告知事の許可がないと、指定地内で土砂等の採取ができず、その許可を受けた者だけが許可条件のもとに適法に土砂等の採取ができるにすぎない。従つて、許可を受けない限り、適法にこれらの行為ができないことは明らかであり、原告会社が主張するような期待権が発生する余地はない。

三行政事件訴訟法九条は、処分取消しの訴は当該処分の取消しを求めるについて、法律上の利益のある者に限り提訴できるとしているが、この法律上の利益のある者は、取消判決をするについて、具体的利益がある者をいうと解するのが相当である。

四以上の視点に立つて本件を観ると、原告会社は、本件訴によつて本件処分の取消しを訴求しているが、原告会社の主張どおり本件処分に違法の瑕疵があり取り消されたところで、原告会社は指定地内で土砂等の採取ができる立場にないことは、原告会社が無許可であることを自認している限り明白である。

そうすると、原告会社には本件処分の取消しを求める具体的利益は何もないことに帰着する。

五以上の次第で、原告会社の本件訴は訴訟要件を欠き不適法な訴として却下を免れないから、民訴法八九条に従い主文のとおり判決する。

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